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鹿子木宏明のDX対談コスモエネルギーホールディングス株式会社 ルゾンカ典子さん

石油精製から販売まで幅広く事業を展開する総合エネルギー企業、コスモエネルギーホールディングス株式会社。常務執行役員CDOのルゾンカ典子さんにDXへの取り組みについてお話を伺いました

鹿子木 3年前にコスモエネルギーホールディングスに移られましたが、キャリアのスタートはアメリカとお聞きしています。

ルゾンカ はい、意外に思われると思いますが、大学では心理学を専攻しました。卒業後はアメリカの金融機関でデータ分析から顧客や商品の動向を調べ、分析結果をもとにした社内支援業務などに携わりました。帰国してからも外資系の金融機関で分析をしていたりと、実はデータが大好きなんですね。データを見ると血が騒ぐ(笑)。この熱い思いを持った状態でコスモにジョインしました。

鹿子木 心理学は、CDOとどのように関係しますか?

ルゾンカ データといえば、以前は性別や年齢、居住地などの人口統計学的なものでした。ところが今は、デジタル技術の進歩によってお客様の行動履歴、つまり証跡が残ります。これを分析すると一人ひとりのニーズがわかります。製造などの分野においても、ユーザー目線に立って考えることには心理学的なアプローチが必要です。実は心理学はビジネスと密接な関係にあり、DXの推進にとても役立つのです。

鹿子木 確かにおっしゃる通りです。今はどのようにDXを進めておられるのでしょうか。

社員の士気を高め
DXを自分事化してもらう

ルゾンカ 社内でのDX推進をもっと加速するため、まずはDXのコアメンバーだけでなく、現場に出向いて侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を重ね、DX戦略を策定しました。それが「Cosmo’s Vision House」です。
DXを推進するには全員参加型であること。そしてデータに基づいた意思決定が何より重要です。そこで、下図のような3層構造にしました。一番下の土台が社員一人ひとりの姿勢や行動を言葉にしたものになります。Chance(機会)、Challenge(挑戦)、Change(変化)、Communicate(対話)、Commit(こだわり)で、頭文字を取って「Cosmo’s 5C」と呼んでいます。

鹿子木 コミュニケーションではなくコミュニケート。コミットメントではなくコミット。すべて動詞ですね。

ルゾンカ 一人ひとりに取り組んでもらう、「do」の部分が重要だと思っています。誰でも日によって気分が変わりますし、常にチャレンジし続けるだけでは疲れてしまいます。時には息を抜いて、チームのみんなを応援するだけでもいいという思いから動詞にしました。強要ではなく、自分から実践してもらうことが大切です。

鹿子木 社員の皆さんがDXを自分事化する意識改革があって、次に立つのが2層目のDX戦略であると。

ルゾンカ それがビジネスモデル変革のための「デジタル・ケイパビリティ」と「チェンジマネジメント」です。このレイヤーは個人というより、会社として進めることです。とくに「チェンジマネジメント」が重要です。例えば、今まで当たり前にしていたプロセスの元々の目的を顧みると、そこに改革の大きなヒントが隠れていることもあります。そして「デジタル・ケイパビリティ」を掛け合わせることで、潜在的なリソースを最大限に引き出すことができ、一番上のレイヤーの「Cosmological Evolution」につながります。

鹿子木 「デジタル・ケイパビリティ」のデータ活用基盤構築は、多くの企業が頭を悩ませています。御社ではどのようにされていますか。

ルゾンカ どのツールを活用するにしても、まずデータのフォーマットを整えなければなりません。そこでコスモではデータの民主化の第一歩として、Excelのレポートを3回以上使い、それを3人以上で共有しているならBIツールを活用しませんか、と提案しています。

鹿子木 それはわかりやすいですね。便利さをまず体感してもらい、それが自主的な参加につながっていくと。

ルゾンカ 人はどういう時にやる気になるかと言えば、「楽しいからやりたい」、もしくは「逆境にいてやらざるを得ない」のどちらかです。だったら楽しいと感じてもらったほうがいいですね。弊社では現場の声を集めるため、毎年1回、DXのアンケートを取っています。具体的にはDXのどんなところに興味があるか、思いついたキーワードを出してもらうなどです。これには社員の思いがストレートに出ています。それをファクター分析にかけてセグメント化し、その社員のニーズに応じた形でDXのサポートをします。

鹿子木 まさに心理学を生かした方法ですね。

仲間意識があるからこそ
新しいアイデアが生まれる

ルゾンカ 皆さん経験則が違うので、一辺倒のDXはありません。全員が同じスキルを身につける必要はないと思っています。それぞれの個性を生かせるよう、私たちDX部門がイネーブラーとなり、サポートする環境を整える。現場の皆さんが持つDXのアイデアを形にしていくために、グループ内でアイデアを募集する「Cosmo’s DX Hub」というプログラムがあるのですが、こうした活動を通じ、みんなが仲間意識を持ってDXを楽しめるようになります。また、マネジメントレベルの人が常に応援団になっていることも強みです。

鹿子木 現場からも積極的にDXのアイデアが生まれているのですね。

ルゾンカ 現場の皆さんがどういう形で何をやりたいのかという点を重視しています。エンジニアとデータサイエンティストの考え方の違いはありつつも、コミュニケーションを重ねて、最終的にデータをオーケストレーションさせていく。また、それを実現していくためのベースとして、現場のインフラやセキュリティも考えながら取り組んでいます。

鹿子木 製造業でDXに取り組むには何から始めればよいでしょうか。

ルゾンカ まず今何をやりたいかを明確にすることです。例えば、製造のラインでの効率を上げたいのならどのように変えたいのか、現場の方々を含め話し合って決める。そして大きな目標の手前にもう1つKPIを立てるのです。いきなり大きなゴールに向かっても、進捗管理や問題が起きた時の軌道修正がしにくくなるのでサイクルを小さく切ること。各部署でコントロールできる目標値で進めていくことが重要です。達成感や情熱なしに進めることはできません。コスモでもDXがうまく進んだのは誰か一人の力ではなく、社員全員のやる気、そしてDXを一緒に進めようという仲間が増えた結果なのです。

鹿子木 皆さんが楽しみながらDXに取り組んでいる様子がよくわかり、ココロも満タンになりました。ありがとうございました。

対談を終えて
ルゾンカさんは言葉をとても大切にされていることが印象的でした。コミュニケーションではなくコミュニケート。コミットメントではなくコミット。戦略策定の中であえて動詞を使っている。見た目にはちょっとした差ですが、その小さな文言にこだわることはすごいことです。心理学を専攻されていたとお聞きして、なるほどなと腑に落ちました。言葉を大切にしているということは社員に寄り添うこと、社員の感情やモチベーションをとても気遣っているということです。やはり「楽しいからやりたい、取り組みたいって気持ちじゃないと」、とルゾンカさんはおっしゃっていますが、 それを常に喚起するようにメッセージングしている。すると、伝わる内容が断然違ってくるんですね。DXに取り組み、単にITを導入してシステムを入れ替えるだけではなく、社員がそれをどう考えるか。社員の気持ちを意識して言葉を使っているところが新鮮で感銘しました。(鹿子木談)
PROFILE
コスモエネルギーホールディングス株式会社
常務執行役員 CDO ルゾンカ典子さん Noriko Rzonca

米国大手保険会社のR&Dにおける顧客・商品・リスク分析の経験を経て、2006年に帰国。外資系大手銀行や生命保険会社において、ビジネスアナリティクス部門の立ち上げをリード。2021年11月にコスモエネルギーホールディングス株式会社CDOに着任。現在、ブランド価値やCXの向上、DX人材の育成、データドリブン経営基盤の構築、スピード感のあるイノベーションへのチェンジマネジメントを強化したサステナブルな組織作りに取り組み中。米国にて心理学博士号取得。

横河デジタル株式会社
代表取締役 鹿子木宏明 Hiroaki Kanokogi

1996年4月にマイクロソフト入社。機械学習アプリケーションの開発などに携わる。2007年10月横河電機入社。プラントを含む製造現場へのAIの開発、適用、製品化などを手掛ける。強化学習(アルゴリズム FKDPP)の開発者のひとり。横河電機IAプロダクト&サービス事業本部インフォメーションテクノロジーセンター長を経て2022年7月より横河デジタル株式会社代表取締役社長。理学博士。