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DX Here&NowDX導入成功の秘訣は、DXをしないこと!
経産省「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」ワーキンググループ1の座長を務めた早稲田大学基幹理工学部情報理工学部教授の鷲崎先生に初心者にもわかりやすい、DX導入のためのお話を伺いました。
──DX推進とは具体的にどのような内容を指しますか。
DXは、単純には顧客視点の価値創出に至るデジタルによる変革。トランスフォーメーション※1は、単なる小さい変化ではなく、根本的な抜本的な変革というニュアンスです。
既存とは異なるビジネスモデルや業務の仕組み、その流れやプロセス、顧客とのやり取りも含めて抜本的に変革し続けられることです。
経産省DXレポート2にもあるように、新しい収益モデルを生み出し、利益率を格段に高める。それを価値の源泉が物理世界からサイバー世界へ移りつつある今ならデジタル技術で実現することが必然です。
──DX初心者はまずは何から取り組むべきでしょうか。
初めに必要なことは、DXしようとしないこと。これは、すでにDX化で成功している方の共通項目です。取り組みを始めた時には「DXしようなんて誰もいっていなかった」ということです。
成功者等は実態を観察分析して問題を掴み、誰に対してどのような新しい価値を生み出せるのかを実直に考えて構築し、仮説を立てて実施、検証する。これを繰り返す中で、デジタルの技術でもあるデータで見ていく視点が必然でした。そして終わってみれば、それはどうやら世の中的にはDXというらしい、と。
まずは今一度、ビジネスモデルの基盤を見直すことから始めると良いと思います。
小さな投資と小さな成功は、
小さな失敗で終わってしまう。
──DX成功の秘訣として付け加えるとしたら。
一足飛びにDXで成功することは難しいです。成功した所は、1年とかじゃ逃げない。やっぱり3年、5年と粘り強く投資をし続けている。
DXの特区とよくいったりしますが、最初は利益率だけでは評価は難しい。社内で、のびのびと実験や検証を繰り返させていく。それを粘り強く根気よく行った所が、割としっかり生き延びて、結果成功している。それを組織立って進めるために、経営層が明確なビジョンをもって予算をつけること、そしてそれを受けて推進するためにIPA※2がいうところの「やたがらす人材」、つまり経営・事業・技術を分かってリードできる人材が必要です。
私が責任者を務めるIoT・AI・DXリカレント教育「スマートエスイー」では、早稲田大学が代表校となって産学連携によりフルスタックの体系的かつ演習中心の実践的な教育プログラムを構築し、やたがらす人材を育成しています。
DXありきではない陥りやすい注意点と失敗
──初めて挑戦する企業は何から取り組みをするべきですか。
既存ビジネスのビジネスプロセスに無駄がないかどうかをまず検証することでしょう。
組織内や顧客との接点、その他のパートナーとのつながりなど、改善すべき所がないか、何か課題を抱えていないか。この点が非常に実直なひとつのポイントだと思います。これがフォアキャスティング※3です。
例えば、トラブル発生時に人手でメール対応しているところを自動通知するように変更する。これだけで改善ですし、小さなDXでもある。でもこれって大枠はそのままなので、抜本的なものには至りません。
その一方でバックキャスティング※4ですよね。これは本当に一番あるべき姿を狙う、夢物語に近いような状態です。でも、ここには一足飛びには行かないし当然物理的に不可能なこともあります。でもそこから逆算して、データやデジタルによる変革へと至るロードマップ※5を描く。
先の例でいえば、そもそもトラブルゼロとなるような予防や根本的なプロセスの改革、さらには万一のトラブル時に自動修復する仕組みを実現するという具合です。
このフォアキャステイングとバックキャステイングの両軸で考えていくことが大事でしょうね。
デジタルファーストで考えよう。
他社の事例を気にせず、先駆者として駆け出そう。
──DX化への取り組みを行う上での注意点や陥りやすい失敗は。
大きく3点。まず1つ目は、DXありきで入ってしまうこと、そしてその裏返しのテクノロジーから入ってしまうことです。
これはDXが単にデータを集めれば良いことでもないですし、AIを使って自動化すれば良いわけでもないことだからです。要は目標もなくロードマップもなく資料だけ集めても顧客視点の真に価値あるビジネス変革に至る筈がないのです。
2つ目は、現状に対する危機感や無駄、矛盾に気がつけるかどうか。例えばハンコ付きのリレーをしている時、単に押印を自動化しようというよりも、背景のプロセスをデジタル化のうえで改善できないか考える。デジタルファーストの考えです。
そして特にお伝えしたいのは、経営層・CIOの方が、しっかりと自分ごととしてDXを捉えているかどうかです。
とある講演の場で実際にあったことですが、講演後の質疑応答で出た内容が、みんな共通で「うちだとどのような事例が参考になりますか?」と。口を揃えて出た言葉が「事例」だったのですよね。
自分達に何か問題があるなんて受け止めない。同じ業界で、よその良い事例があれば、それを真似してやってみようとなってしまう。
本当にDXで成功したかったら、前例としての事例は、なくて当然。今一度、先駆者として駆け出す必要があることを認めていきましょう。
──日本のDXは今後どうなっていくとお考えですか
価値の源泉はデジタルだと気づかせる警鐘を改めて鳴らすこと。そして「過去の成功を忘れられる人」になる、それを経営層ができるかどうかに掛かっていると思います。
経産省やデジタル庁もそうですが、法制度や基盤形成支援、資金面の優遇なども含めて、政策として日本全体が後押しする形にできるかどうか。産業の垣根を越えたエコシステム、さらにはデジタル産業形成に至るかどうか。ここ5〜10年が鍵かなと思います。
そして日本のサービスやプロダクトの品質の良さを、顧客視点の価値につながるよう必要十分な形でスピード感を持ちつつ、研ぎ澄まして自信を持って世界へ出して欲しい。
有名なワインバーグ氏の言葉にもあるように、品質は誰かにとっての価値であり、価値を見出すということが品質であるのだと。
そしてそれを推進するDX人材の育成が不可欠です。私が取り組んでいるのもそこなのです。
──最後に改めてDX成功の秘訣を教えてください。
私の好きな言葉に、プログラミング言語COBOLの開発者グレース・ホッパー氏の「この世で最も危険なフレーズは『今までこうしてきたから』である」というのがあります。
彼女は何年も誰にも理解されなかった中、折れずに粘り強くコンパイラ※6の概念を実用化させたひとりです。
コンピュータを動かすためにコンピュータがわかる言葉でプログラムを書くのが当然という時代。人がわかる言葉で書いてから翻訳するほうがよいと提案しても、当初は理解されなかったわけです。
DXに対しての概念を根底から変えることがやっぱり必要だと思います。それから、小さいトライ&エラーで留まらないということですね。DX貧乏という言葉もあるように、小さな投資と小さな成功、小さな失敗で終わってしまう。
そしてあくまでもDXが目的ではなく手段だという再認識が必要不可欠なのです。
※1 トランスフォーメーション=変革。
※2 IPA=独立行政法人 情報処理推進機構(経産省管轄)
※3 フォアキャステイング=現在のやり方を大きく変えずに地道に改善を行うこと。
※4 バックキャステイング=達成不可能と思えるレベルの目標を設定し、それを逆算して現在の施策を考えること。
※5 ロードマップ=プロジェクトの全体像を管理する為に視覚でわかるように見せる思考ツール。
※6 コンパイラ=人がわかる言葉でプログラムを書いてそれを機械がわかる言葉に翻訳する仕組み。
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DXに向けた各種の取り組みを、組織の事情に合わせて組み立てていく様子を「テトリス」に例えた説明がとてもわかりやすい、と鷲崎さんオススメの本。「カタカナがかなり多いので、注意深い読解が必要だけどね」
「デザインド・フォー・デジタル 持続的成功のための組織変革」
ジーン・W・ロス、シンシア・M・ビース、マーティン・モッカー 著 日本経済新聞出版 ¥2,640(税込)
- PROFILE
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IoT・AI・DXリカレント教育「スマートエスイー」事業責任者
早稲田大学基幹理工学部情報理工学 教授
早稲田大学グローバルソフトウェアエンジニアリング研究所所長
国立情報学研究所客員教授
株式会社システム情報取締役(監査等委員)
株式会社エクスモーション社外取締役