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DX FrontLine堀場製作所がいち早く取り組んだグローバルでの基幹システム導入
栗田 弊社は、現会長兼グループCEOの堀場厚が社長に就任した1992年を境にグローバル展開を加速しました。海外の会社を買収すると当然グループの基幹システムが異なる状況が生まれます。当時、アメリカの子会社がSAPを、日本は内製のホストシステム、そして欧州はMovexやJD Edwardsなどをそれぞれ運用していたため、上がってくる情報がバラバラという状態でした。
M&Aが進み規模が大きくなるにつれて、財務のメンバーを中心に統合化した基幹システムが必要だという声が上がるようになりました。2003年に“ワンカンパニー宣言”という新しい経営方針を策定し、その中で統合SAPシステムの導入を検討することが正式に決まりました。ここでグローバル展開に向けたプレスタディがスタートします。
この時1番の課題になったのは、日本の生産プロセスでした。個別受注品を取り扱うための特化したプロセスがSAPで実現できるのか、あるいはそのデータの標準化がどこまでできるのか、といったところを検討して、ある程度感触を得た2005年からプロジェクトをスタートしました。ただこの時はグローバル展開のアプローチに問題があり、日本はSAPを使ってシステムを導入していく一方で、中国は中国、ドイツはドイツと、横の連携が十分に取れないままそれぞれのプロジェクトが進んでしまったのです。それに加え、日本では現行の業務プロセス、やり方、手法というものをAs-Isをベースに進めてしまったことも反省すべきところでした。こういう標準化をやっていくということは現状のAs-Isを捨てないといけない。簡単な話ではありませんが、標準のプロセスに自分たちが合わせないといけない、今のものを捨てなければならないという覚悟が、私自身を含め参画していたメンバーに足りませんでした。
こうしてできあがったものは巨大なシステムになり、ある意味では共通化している部分もありますが、とても「グローバル統合基幹システム」と呼べるようなできではありませんでした。
この時点でスケジュールが大幅に伸び、予算的にもかなりオーバーしてしまいました。とても続けられる状況でなかったことに加え、ちょうどリーマンショックが起こったため、グローバル展開は一旦凍結になり、そして、リーマンショックが収束した2011年に改めて機運が高まり、再開する運びになったのです。
第1回で得た教訓から
盤石な体制を作る
栗田 第1回の時にバラバラに走ってしまったプロセスの標準化をしっかり図り、それをシステムでテンプレート化し、そのテンプレートを各地に展開していく。このようにアプローチを変えたのが第2回の取り組みになります。
第1回もプロセスの標準化はスローガンにあったはずです。それにもかかわらず、進めていくためのアプローチがしっかり取られていなかった。プロセスの標準化に向けて、グループとして何を標準化するべきなのか、何をオプションにするのか、あるいはこの部分は各社柔軟に対応するのかということの議論が本来なされるべきはずだったのです。つまり1回目に失敗した大きな要因は、コミュニケーション不足であると。我々からすると、各拠点における業務プロセスごとのオーナーと直接コミュニケーションするチャネルもなかったですし、そもそも我々はそこまでしないといけないのかなと、モチベーションが完全に欠落していたのですね。日本のプロジェクトのトップと、各拠点のプロジェクトのトップが調整するのだろうと、他人事みたいなところがあったのかもしれません。
このような反省点を踏まえ、2回目は各プロセスオーナーが1か所に集まって、フェイストゥフェイスでコミュニケーションしながら、あれこれ議論しようということに合意を得て、皆さんに参画していただきました。プロセスのどこを標準化するのか、どんなレベル感で標準化するかをしっかりディスカッションする期間を4か月ほど取ったのです。
船田 弊社のM&Aは、相手企業がHORIBAの企業文化に共感し、一緒に働きたいと持ち掛けてきた「逆プロポーズ型」のケースが多いため、意思疎通の面では進めやすかったと思います。
栗田 そういった意味でも、世界各国のメンバーが1か所に集まって同じ時間を過ごして議論できたのは、とてもよかったですね。
フランスでワークショップを2週間した後、すぐに京都に場所を移して同じメンバーでワークショップを行う。それぞれが課題を一旦持ち帰って、実際のシステムで対応できるのか、うちの国にはこういう法規制があるなど、細かい論点を整理した後に、またフランスで集まるなど、濃密な時間を過ごしました。これがなかったらおそらくグローバルの展開は、うまくいかなかったと思います。結果として、第一関門であるテンプレートを作ることに成功しました。次のステップとしてグループに展開していくうえでも、その裏にあるHORIBAグループとしての標準化を守っていかなければならないという思いをグローバルで共有できたというのは、非常に大きかったと思います。
IT投資の効果を評価しつつ
新しい取り組みを進める
栗田 意義や価値観をしっかりと共有したうえで、グローバルの基幹システムを持つことは大きなアドバンテージだと思います。デジタルトランスフォーメーションというような事業変革を進める際に、例えばオペレーションの数値をプロセスやシステムに反映しやすいのです。ここにあまり力をかけなくても、会社の変革に耐え得るような基盤があるというところは、何よりアドバンテージだと思います。そこに対して我々がいかに攻めるか、良い取り組みに自分たちの力を発揮できるかが次の課題だと思います。
一方で、ITへ投資するリターンが出ているのか? これは永遠の課題かもしれませんが、これまで十分に示しきれてない部分もあります。IT施策を実施する前に期待効果を十分に査定し、実施後に想定通り効果が出ているかどうかを評価し続けながら、平行して新しい取り組みを進める必要があると考えています。