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鹿子木宏明のDX対談株式会社堀場製作所 中村博司さん

鹿子木宏明のDX対談。第3回は株式会社堀場製作所執行役員CTO、開発本部本部長の中村博司さんにお越しいただき、主にグローバルに取り組むDXについて伺いました。

鹿子木 海外にも長くいらしたと。
中村 入社してから一貫して堀場製作所に勤めていますが、エンジニア時代に2年間ほど米国ミシガン州に出向しました。その後2015年から約6年の間、ドイツへ現地法人の責任者として赴任しました。日本に帰国したのは2年前になります。ですので、同じ会社でずっと働いてきたという感覚は、実はあまり持っていません。現在ではグループの先行開発、ソフトウェア、デジタルソリューションの責任者としてCTOをしております。
鹿子木 グローバルにご活躍されてきたのですね。エンジニアとして取り組まれてきたのは?
中村 主に自動車の排出ガスを計測する装置の開発です。排出ガスは、通常実験室にある定置型の分析計で計測しますが、それを車載できるぐらい小型にするプロジェクトを主導し、小型化に加え、計測の高精度化と高速化を目指していました。できあがった計測器は、発売当初はあまり売れませんでした。もともと明確な市場を目指したわけではなく、どちらかというと研究機関や大学などが必要なデータを計測するのに使われるかな、というぐらいの目論見で始めたものです。
鹿子木 ただ、この計測器がフォルクスワーゲンの排出ガス不正を見破ったというニュースは記憶に新しく、とても印象に残っています。
中村 アメリカ・ウエストバージニア大学の先生のことですね。確かにそれを契機に弊社の計測器にも注目が集まりました。また、ヨーロッパでは路上走行中の車の排出ガス規制がさらに強化される流れになりました。
鹿子木 御社の計測器が社会を変えたということになりますね。
中村 計測器メーカーとしてしっかりとした値を、責任を持って出す必要性、責任の重さを改めて感じるきっかけになったと思います。
鹿子木 日本では国を挙げて製造業のDXを推進しようという動きがありますが、御社のDXへの取り組みにはどういったものがありますか。
中村 お客様向けのソリューションでDXの経験を積んできたと感じます。弊社が自動車の計測ビジネスを始めたのは1950年代で、その後排ガス規制が始まり、かなり細かくワークフローや試験手順が提示されました。人の手作業でできるような簡単なものではなくなってきたので、現場から自動化が要求されるようになりました。1970年代にアメリカのインターオートメーション社の一部を買収し、様々な業務プロセスを自動化するソフトウェアも組み合わせたトータルソリューションの提供が可能となりました。ある意味これが堀場製作所としてのデジタルトランスフォーメーションの第一世代だと思います。
 1990年代には車もデジタル化が進み、エンジンの制御もほぼ電子制御になります。エンジンコントロールユニットやECUの性能が格段に高くなり、それに比して扱うデータも膨大な量になった時代ですね。今でいうビッグデータといわれるものです。当然ですが、それまでの手法ではフォローしきれないため、そこに主にDOEといわれるような統計学の手法を導入しました。データサイエンス的な手法で、この時代に実験の効率化が進んだと思います。
鹿子木 クルマ産業のDXは、やはり時代の最先端を行ってますね。

中村 我々にとっての第三世代は2000年代に入ってからで、ひとつは車の電動化が進んだ時代です。エンジンにモーターが加わり、いろんなパワートレインの組み合わせができてきた時代です。構成要素がひとつ増えた分取り扱うデータも増え、コンポーネント同士のすり合わせにも時間がかかる。いかにそれらの試験を効率的に進めていくかが課題です。コンポーネントをバーチャル化、今でいうデジタルツインのようなものにしてリアルなものを組み合わせるという、ものがなくてもすり合わせを進められる手法の開発が進んだのがこの10年くらいです。弊社では2005年にドイツのカール・シェンク社の一部事業を、2015年に英国のマイラ社を買収して技術導入をしながらソリューションを提供したという歴史があります。
鹿子木 最初はオートメーション、次がビッグデータ、あるいはデータサイエンスを使った解析。そしてバーチャル化と。常に最先端のソリューションを提供しているわけですね。
中村 新しい手法というのはやはり自動車メーカーさんが先行して、我々はそこに追いついていけるようにと、かなりの部分で牽引されてきたと思います。
鹿子木 海外の有望な会社を買収するのは、主にスピードを重視してですか?
中村 スピード感もそうですし、新しい取り組みを始めていくうえでは、自社の持っている技術だけではなかなか難しいということもあります。
鹿子木 海外のソフトウェア企業と協業したいと考えている日本の企業は多いと思いますが、どういったところが課題になりますか?

成果を横展開に
していくのが重要

中村 デジタルのソリューションを展開していくと、どうしても現場が先行してものづくりを始めます。すると、場合によっては地域ごとにそれぞれまったく別のもの作ってしまうのですが、お客様自身もそれをグローバルに展開したくなります。こうしてできあがったバラバラのソリューションをグローバルでサポートするのはとても大変です。すると、グローバルで統一されたプラットホームですべてシングルインスタンスにしていこうとなりますが、それでは逆にローカルの要求に応えづらくなる。ここのローカルとグローバルのバランスを取ったオペレーションを作るところが苦労するポイントではないかと思います。
鹿子木 まったく同感ですね。今、お話しいただいたようなDXですが、御社内ではどういった取り組みをされてきたのでしょうか?
中村 実は内部の基幹システムを導入した時に難航したことがあります。2003年の創立50周年を機に“HORIBA Group is One Company”というスローガンの下にグループで事業戦略を立て、グローバルでの意思決定迅速化を図りました。そうした取り組みを進める中で、地域でシェアができるようなサービスを効率化することを目標に、グループのERPのシステムを統一するプロジェクトが始まりました。グループのITのメンバーが集まってシステムの構築を始め、当初の目標は業務手順などを統一し、そのテンプレートをSAPのシステムに入れることでした。しかし、初めてづくしの取り組みの中では課題も多く、現場との距離感というか、地域の特性の差というのをうまく埋めることができませんでした。結局SAPの導入は一部に限られ、グローバルのテンプレートまではいかなかった。そこで一度プロジェクトを中断し、2011年から再開しました。ITのメンバーに加え、それぞれのファンクションの現場のメンバーが集まって、どこをグローバルで統一して、どこから各地域でそれぞれの特長を出すかをかなり吟味したうえで、グローバルのERP、SAPを導入しています。この2回目は外部の協力も得ながらロールアップして、今では全社展開できるようになっています。

鹿子木 地域性とグローバル共通のいいバランスが実現したということでしょうね。日本の製造業がグローバルでDXを進めていくうえで、何がポイントになると思われますか?
中村 繰り返しになりますが、プロジェクトは現場ドリブンで進めていく。プロジェクト自体は現場ドリブンだけれども、ITのメンバーは現場主導でやってきたアプリケーションに共通化できる部分を見つけて、いかに横展開できるかというのを考える。この2つをうまくバランスをとるのが重要かと思います。
鹿子木 プロジェクトは現場というかローカルで、ただ基盤としては共通のものを作っていく。そうすると横展開もしやすくなるし、いいとこ取りができるということですね。本日は非常に面白い話をお聞きできました。ありがとうございました。

PROFILE

1998年に堀場製作所に入社。主に自動車計測事業に携わる。エンジニア時代に約2年間、米国ホリバ・インスツルメンツ社に出向し、その後2015年からドイツの現地法人ホリバ・ヨーロッパ社に赴任。2016年より同社の代表取締役社長を務める。2021年帰国。2022年7月に分析・計測開発本部長、コーポレートオフィサー(執行役員)CTO兼ビジネスインキュベーション本部長に就任。博士(工学)。

1996年4月にマイクロソフト入社。機械学習アプリケーションの開発などに携わる。2007年10月横河電機入社。プラントを含む製造現場へのAIの開発、適用、製品化などを手掛ける。強化学習(アルゴリズム FKDPP)の開発者のひとり。横河電機IAプロダクト&サービス事業本部インフォメーションテクノロジーセンター長を経て2022年7月より横河デジタル株式会社代表取締役社長。理学博士。