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DX Here&NowDXを担う人材には自ら課題を見つけ、解決するアナログスキルが欠かせない。
粛々と進む日本経済の停滞。脱却を図る手段の1つがDXであり、その達成に欠かせないのが人材である。DX人材に求められる資質とは何か? そのスキルをどのように身に付けるのかを、DXの教育と実践に詳しい、DXエバンジェリストの荒瀬光宏さんにお聞きしました。
──DX人材と、IT・デジタル人材に違いはあるのでしょうか?
荒瀬 一般的に言葉が同義に使われていますが、本来は中身が違います。IT人材とデジタル人材はほぼ同じ定義で良いと思います。一方のDX人材を簡単に言うと、DXを実行しようと思った時に必要となるスキルを持つ人です。DX人材には組織を再設計し、変革を総合的にプロデュースすることが求められます。
──そのような人材を確保するためにやるべきことは何でしょうか?
荒瀬 何より経営者自身がDXの視点を持つことです。私はDX人材を育成しろと号令をかけている企業を多く見てきましたが、ほとんどの場合、経営者自身がDXから一番遠くにいました。なぜかというと、まず経営者はその組織の中でも高齢でデジタルに弱いということがあります。それから重要なのは、経営者はその組織の中で活躍して成果や結果を出してきたことです。そういった方々は往々にして、「この業界ではこうしたら勝てる」というサクセストラップに捕らわれています。例えば製品を同じ設備で少しでも数多く、高品質で生産することが大事だと。それをKPIとしてマネージメントしているわけです。自分はそれをさらに良くするために色々とアドバイスできると。
成功体験が広げる
ビジネスギャップ
ところが世の中はどんどん変わり、より個別最適化された価値を作らなければならない、デジタルでお客様の体験を向上させなければならない、となっています。それでもそのサクセストラップがあるが故に、経営者は今までの延長で改善していくことが一番だと信じている。そのやり方を重ねていくと、先へ行けば行くほどギャップが大きくなります。こうして市場のニーズとビジネスのギャップが拡大し続けている。それが今の日本企業の姿です。
──会社が求めるDXの方向性が決まらなければ、DX人材を育てることができませんか?
荒瀬 そうですね。自分たちの組織はこの先30年をこう戦うと方向を定め、組織のあり方や世の中にどんなサービスや価値を提供するかの方針を決める。だから、この部署ではこのスキルを持たなければならない。そのようなビジョンがないままにDX人材を育成するのは難しいと思います。
DX人材に限らず、ITリテラシーを高めよう、ITの資格を取りなさい、とやっている会社が増えています。でも、いつ使うかわからないITスキルやプログラム、データマネジメントを学べと言われても意欲が湧きません。そこが課題です。しかも、その部署でのDXのビジョンや目標が定義されないままに学ぶと、スキルを習得したエキスパートは結果として転職してしまいます。身に付けたスキルを活用し、実践するチャンスがないからです。何でもかんでもITリテラシーを学べというのはとてももったいないと思いませんか? 何となくデジタル必要だね、ビッグデータは大事だね、ではダメなのです。
今まで企業は消費者のニーズにあったモノそれ自体を提供していました。例えば高性能なレンズやカメラです。でも、今の顧客が求めるのはレンズやカメラではなく、撮った写真をリアルタイムにSNSで送れるとか、写真を加工して楽しめるなどです。デジタルを使えばそのような顧客のニーズを満たすことができます。でも、日本の企業はモノを作って提供することに長年集中してきて、それが続いています。日本よりコストを下げて戦いを挑んでくる世界を相手に、依然として同じ土俵で戦っているのです。さらに、デジタルになるとその戦い方がまったく変わるということを、肌で感じられるのは物心がついたときから様々なデジタルサービスを利用している若い人たちかもしれません。
──DX人材の確保は中途採用と育成が考えられますが。
荒瀬 中途採用は簡単ではありません。やはり社内のリスキリングが重要だと思います。ここで必要なのは、どんなITスキルを身に付けるのかという、学ぶことをある程度設計することです。ただし、ITのスキルが身に付けばDXができるわけではありません。最初に述べたように、DX人材には組織を再設計し、変革をプロデュースすることが求められます。目的に応じた、あるいは基礎的なITリテラシーは必要ですが、顧客にどのような価値を提供するのか、ビジネスモデルを変革し実現させるというスキルに関しては、日本の企業は訓練できていないのが実状です。
──それはなぜですか?
荒瀬 例えば製造業は、毎日決まったルーティンで仕事をするものです。プロセスが決まっていて、そこから逸脱しないことを徹底的にマネジメントされています。でもDX人材には“逸脱しない”ではなくて、例えば自分の部署に関係ないところに出向いて問題を解決するという“逸脱する”姿勢が必要です。この自ら問題解決に取り組むことを、日本の義務教育では教えてきませんでしたし、会社も目の前の仕事に集中しているほうが無難に評価されるという文化だったからです。
それからDXが進まない理由の1つに、少子高齢化があります。少子高齢化により、起業する若手自体が少ない傾向にあります。若者が次々に起業することによって、業界のDXは自然と進むのですが、日本の場合はこの新しく生まれる企業の数が他の国より圧倒的に少ないのです。
──DX人材には、正解のない課題に直面した時に、それをどう解決するかというスキルが求められるということですね。
荒瀬 同時に、DXは全体最適の1つの手段ですから、その全体最適をどのようにプロデュースするかという旗振りが重要になります。
DX人材に欠かせない
アナログスキル
そういった意味では、今までの伝統や常識を疑う姿勢、顧客や人々の行動をよく観察して、なぜこれをやっているのかと考える姿勢、それから根本的な原因を深掘りしていくスキル。さらには、みんなでコラボレーションしながら1つのテーマに対して合意形成をし、この方向に進めようと人を引っ張るスキルが必要です。私はこれらをまとめてアナログスキルと言っています。デジタルスキルも必要ですが、アナログスキルがないとデジタル人材にはなれてもDX人材にはなれません。
──では、DX人材育成をどこから始めるのがいいでしょうか?
荒瀬 DXは、変化する環境に合わせて戦い方を変えよう、その新しい環境に適応しようという考え方です。そうした新しい環境の下で自分たちの組織を作り直すのであれば、もう一度ビジョンを考え、戦い方の基本方針を再設計しなければなりません。
経営者は経営者としての、DX推進担当は担当としての、そして現場はそれぞれの現場に応じたDXリテラシーが必要になる。まずは組織ごとにDXを定義し、必要なスキルの検討から取り組むことも有効だと思います。
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数多くの国内企業、自治体のデジタルトランスフォーメーションを研究し、DXを成功させる企業変革プロジェクトを指導。